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粒子径測定原理 静的マルチ光散乱法SMLS

はじめに

ナノおよびマイクロ粒子の懸濁液は広く使用されていますが、濃厚状態 (スラリー、ワクチンなど) の実際の分散状態は十分に評価できていないことが多くあります。
 一般的な粒子径測定技術では、測定原理 (顕微鏡法、遠心分離、FFF、ふるい分け、ろ過) またはサンプルの希釈 (DLS、PTA、レーザー回折) により、分散相または見かけの粒子サイズが変化する場合があります。 測定による変化は、せん断応力 (ポンピング、流動、ろ過、遠心分離) や、希釈などの測定条件によって壊れてしまう可能性がある凝集物を含むサンプルの場合に特に生じます。 製品開発、規制順守、または健康と安全のテストのために、本来の懸濁液のままで粒子分析を行うことが望ましいです。本内容では、濃厚試料も測定可能な静的マルチ光散乱法(SMLS)の原理と評価事例を示します。

特徴と原理

静的マルチ散乱式の粒子径解析は、測定された透過光、散乱光を基に、粒子濃度、粒子と溶媒の屈折率から平均粒子径を解析します。分布は得られませんが、0.0001~95%と希薄から濃厚、10nm~1000μmまで幅広い粒子径に対応し、流れ場でも測定でき、解析に粘度が必要ないという他の粒子径測定機にはない利点があります。ISO TS 21357:2022で示されています。 “Nanotechnologies — Evaluation of the mean size of nano-objects in liquid dispersions by static multiple light scattering (SMLS)。

原理は次の通りです。容器に入った、透過性のない濃厚な懸濁液に光が照射されると、液中で光は粒子により多重に散乱し後方散乱します。後方散乱光強度IBS は√l*(光子輸送平均自由工程)に反比例し、さらにD平均径とは以下の関係式(式IBS=)があります。ここでl*は光子が初期の軌道から外れたときに移動した距離に相当します。 この式より粒子体積濃度、粒子と溶媒の屈折率が分かればBSより平均粒子径が計算できます。

透過性のある懸濁液の場合、透過光が強く得られ、透過光強度ITとl(光子平均自由工程) には以下の関係式(式IT=)があります。ここで光子平均自由工程は拡散現象が起こる前に光子が移動した平均距離を表します。透過光強度ITから平均径を求めるには粒子体積濃度、粒子と溶媒の屈折率、溶媒の透過強度T0が必要です。

透過光、後方散乱光両方から粒子径を計算できるため0.0001~95%と希薄から高濃度までの平均粒子径に対応できる原理です。

 

*α、βは複数のサンプル(粒子、溶媒、濃度)による測定結果から得られる値

評価事例

2種のサンプルについて、SMLS(Turibscanで測定)と他の測定原理との比較を行い、さらに濃度を変えて測定しました。 
・トレーサビリティのあるポリスチレンナノ粒子
(学術研究所から提供され、DLS で測定した 60 nm)、 1e-4
から 10 % v/v の濃度範囲の水溶液
 ・乾燥二酸化チタン粉末
   (フランスのマリオン・テクノロジーズより供給、DLSで570nm)、蒸留水中に1e-4 〜10 %v/vの濃度で分散
他の手法として、粒子径測定装置ではレーザー回折散乱、動的光散乱 (DLS)、粒子追跡分析 (PTA) で行いました。これらの方法では、希釈し非常に低い濃度 (1e-4% v/v 未満) による測定のみとなりました。信頼性の高い方法として、 Cryo-SEM/TEMによる観察もしました。この方法 は、非希釈測定に適した手法で、Dganit Danino 教授 (Nanotechnology Institute Technion、ハイファ、イスラエル) によって分析が行われました。 ただし、この手法では、サンプルの準備 (凝集体の分解を避けるために細心の注意を払って行う必要があります)、昇華時間、および顕微鏡像/写真の選択の十分な経験が必要です。
図はポリスチレン ナノ粒子結果です。10-4 % v/v ではSLMSと他の原理で近しい値が得られています。SMLSではさらに高濃度で測定したところ、サイズが濃度に依存せず、粒子は凝集せずに分離したままであることが分かりました。SLMSの結果は、SEM/TEM 顕微鏡写真と一致しています。
図 は、二酸化チタンの結果です。低濃度では3原理で近しい結果が得られています。さらに、SMLSの結果より平均サイズが濃度とともに増加することが示されました。 Cryo-SEM/TEM画像からも、濃度の増加に伴うこれらの凝集が確認でき、SLMSの妥当性が確認できました。 SLMS は、サンプルをそのままの状態で分析することができ、濃度制限やサンプル処理のために他の手法では測定または観察できない濃度での凝集をモニターできることがわかりました。

まとめ

静的マルチ光散乱法SMLSに基づく技術は、 10 nm から 1000 μm のサイズについて、0.0001 から 95% の広い範囲の濃度で平均粒子径を測定することが可能です。 この手法には、濃厚サンプルであってもサンプルの調製や希釈を行うことなく平均粒子径をワンクリックで測定できるという利点があります。一方、粒子径分布測定装置としてよく使用されているLD、DLS、PTA などの他の光学技術は、凝集体を変性させ、本来の粒子径とは異なる誤った結果を与える可能性の高い、希釈による測定となります。
本測定が可能な装置
Turibscan DNS
Turbiscan Lab、Turbiscanシリーズ