総脂肪含有量 (TFC) の測定
1.概要
総脂肪含有量(TFC:Total Fat Content)の測定は食品産業において非常に重要な測定です。なぜなら脂肪は生命維持に不可欠な成分であり、その含量は食品品質の主な指標の1つであるためです。
酸分解法の様な従来のTFC推定法は、時間がかかり、有害な試薬や溶媒を使用する溶媒抽出に基づいているため、精度と再現性が比較的乏しいといった問題点がありました。また、測定・評価結果は溶媒抽出の有効性と、担当者の知識と経験に依存してしまうため、作業者間差異が生まれてしまう手法でした。
しかしNMR法によるTFC測定は有害な試薬や溶媒を使用することなく、簡便で正確な代替法として注目されています。
2.原理
時間領域核磁気共鳴装置(TD-NMR)は、総脂肪含有量(TFC)を迅速かつ正確に測定する技術です。TD-NMRは非破壊での測定が可能で、TFC測定のために追加の化学試薬等を必要としません。TD-NMRは、原材料から最終製品までの製造工程に沿ったほとんどの食品の分析に使用できます。
測定原理は、下記の図の測定シーケンスによる測定を行います。AFIDが全水素量の由来する緩和成分の信号強度であり、ASEが油分中の水素量に由来する緩和成分の信号強度になります。
測定されたTFC値は、ASE /AFID比に正比例します。
3.測定と校正
測定は以下の手順で実行されます。
1.サンプルチューブへの充填
2.80℃で15分間の前処理
3.サンプルチューブをオートサンプラーまたは手動でNMR装置に挿入
4.数秒の測定の実行
5.測定結果の記録
全プロトンに対する液体プロトンの比率を測定するため、サンプル充填時の計量は不要です。校正用サンプル3~4個あることが望ましいです。
NMRアナライザーで得られた測定結果を以下に示します。
基準サンプルの油分量とNMR法で測定して得られた油分量の関係性
4.特徴と利点
TD-NMRを用いたTFC測定の特徴と利点は以下です。
・短い測定時間と高い精度
・サンプル重量の計量が不要
・試薬コストが最小限
・測定者による作業回数の削減
・測定環境の湿度に依存しない測定手法
5.結論
・TD-NMRでは総脂肪含有量(TFC)が全水素量の由来する緩和成分の信号強度と油分中の水素量に由来する緩和成分の信号強度の比に正比例の関係性があることを用いて基準物質で検量線を作成し、食品サンプル中のTFC値を定量測定・評価することが可能です。