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熱線法(THW法)によるナノ流体の熱交換特性の理解

ナノ流体は熱交換分野において最先端技術であり、様々な産業に革命をもたらす熱特性を有します。Thermtest社ではナノ流体の計り知れない可能性を認識し、それらの熱伝導率を正確に測定する先進的なソリューションを開発しました。革新的なTHW-L200センサーを搭載したMP-1はナノ流体分析の最先端に立ち、導電性のあるサンプルでも正確かつ信頼性の高い測定結果を提供します。本ページではナノ流体の世界や関連の産業及びThermtest社の進歩的な知見によって研究・開発をご担当される方々が製品の可能性を開花させる手助けをできるのかという点について深堀りします。

ナノ流体とは?

ナノ流体は熱交換流体のうち特別な分類となります。これらの流体はナノ粒子(通常1~100 nm)が水、エチレングリコール、オイルといったベースフルードに懸濁された流体です。ナノ粒子は様々な形状、サイズで流体中に存在し、ベースフルードの熱伝導性や熱交換特性を向上させます。粒子の種類、サイズ、形状及び濃度は全てベースフルードの熱特性変化に対して重要な役目を担っています。

産業におけるナノ流体の重要性

リチウムイオンバッテリーの電解液

ナノ流体はバッテリーシステム、特に電気自動車(EV)の熱マネジメント能力の向上に重要な役割を担っています。ナノ流体は従来のクーラントに比べて高い熱伝導性を示し、流体全体の熱交換係数を増加し、バッテリーセルと冷却液の熱交換効率を高めます。その結果、ナノ流体はバッテリー温度を著しく下げ、温度の均一性やエネルギー効率を高めます。向上された熱特性によりナノ流体はクーラントに比べてより低い流量でも同程度の冷却効率を発揮します。流量を低くできることにより、ポンプの総駅能力を下げられ、バッテリーシステムをよりコンパクトに、より軽量に設計することができます。スペースと重量が重要な要素であるEVという分野で軽量、コンパクトなバッテリーシステム設計は非常に有益です。

効率の良い熱交換はあらゆる産業におけるバッテリー性能と安全性という点で極めて重要です。適切な熱マネジメントはバッテリー性能の向上に寄与するだけでなく、熱暴走を引き起こすオーバーヒートを防ぎます。熱暴走とはバッテリー内部での引火、そして爆発という極めて危険な連鎖反応のことです。通常バッテリーの最適な動作温度は15~35 ℃です。効率的な熱交換により、バッテリーは最適な温度を維持し、劣化を遅らせ、バッテリー寿命を延ばします。より良い熱交換によって、過度の熱生成による損傷リスクなく、高速充電を可能とします。効率の良い熱交換により得られる高バッテリー性能、長寿命、安全性の向上はEVやその他の大規模エネルギー貯蔵用のバッテリー市場の拡大に極めて重
要です。

その他の産業

自動車の冷却システムへのナノ流体使用は年々増加しています。ベースフルードへのナノ粒子添加によって熱交換係数が上昇し、ラジエーターやその他の熱交換器の効率を向上します。効率が向上したベースフルードによって低流量でも良い冷却効率が得られる為、冷却システムをコンパクトにできます。熱が拡散しやすくなることでナノ粒子はエンジンを最適温度に維持でき、燃費性能向上、エミッション削減、システム全体の効率化といった効果が得られます。

ナノ流体は熱、換気、空調(HAVC)システムの性能及び効率化にも大きな影響を与えます。フルードの熱伝導性の向上により、HVACシステムがより効率的に稼働します。HVACシステムの効率化により、少ないエネルギーロスで設定温度に維持できます。オコンクウォ博士らによる研究により、ナノ流体の使用でHVACユニットのエネルギー消費は大まかに20%程削減されたとの報告があります。この結果は稼働コスト削減だけでなく、環境への影響の低減にも貢献できることを示しています。自動車の冷却システムなどにおいて、ナノ流体の使用によって、自動車の冷却システム等はより洗練され、よりコンパクトな設計となり、一方で高い性能を発揮できるようになります。

ナノ流体は地上あるいは宇宙空間での熱交換流体としても用いることができる可能性を秘めていま
す。ナノ流体は大気圏外への旅で求められる熱マネジメント、熱効率及び性能もカバーします。ナノ流体の優れた熱交換特性はエンジンやアビオニクスといった宇宙船の重要なシステムを最適な温度に維持します。さらにこうした熱特性は、オーバーヒートや熱ストレスを減少させ、宇宙船に搭載される機器類の寿命を延ばします。
ナノ流体使用による宇宙船の熱マネジメント性能の向上により、より効率的な冷却、より高い燃費性能及び軽量化が可能となり、宇宙旅行の推進に寄与します。

THW法による導電性ナノ流体の測定

Thermtest社の測定プラットフォームMP-1は固体、液体、ペースト及び粉体の熱伝導率、熱拡散率、比熱、熱浸透率を測定できるように設計されています。MP-1ではセンサーを変えることで熱板法(TPS法:ISO22007-2)及び熱線法(THW法:ASTM D7896)の両方に対応します。

従来、導電性がある為、熱線法によるナノ流体の熱伝導率の測定は極めて困難でした。ナノ粒子はベースフルードの熱伝導率を向上させるだけでなく、しばしば導電性も向上させていました。電流が導電性のある流体に印加されると、THW法で用いられる電気信号に干渉し、正確な測定ができなかったり、ノイズ信号を発したりということが発生します。組成にもよりますが、導電性のある流体の多くはワイヤープローブと化学反応し、経時的なワイヤーの変性や劣化を引き起こします。

Thermtest社のTHW-L200センサーにはナノ流体の導電性という阻害要素を取り除く為に設計された付属品があります。通常のスチール製容器では残存してしまう電気的な干渉や分極効果をPEEK製容器で減少させることができます。またTHWセンサーにはエポキシコーティングもでき、腐食や損傷を引き起こす、流体とワイヤーの反応も防ぐことができます。

測定結果

Thermtest社の測定プラットフォームMP-1は固体、液体、ペースト及び粉体の熱伝導率、熱拡散率、比熱、熱浸透率を測定できるように設計されています。MP-1ではセンサーを変えることで熱板法(TPS法:ISO22007-2)及び熱線法(THW法:ASTM D7896)の両方に対応します。

MP-1、THW-L200センサー及びサンプルとして塩水20 mLを用いて実際に測定を行います。塩水はナノ流体ではありませんが、導電性を有します。ナノ流体のようにナノ粒子は含みませんが、塩水は濃度を調整することで様々な粒子を含有するナノ流体の導電性を模すことができます。

サンプルをPEEK製容器に充填し、センサーを浸漬します。適切な温度、正確性、繰り返し性を得る為に、検出電流設定を用いて最適なパラメーターを決定します。室温で3回の測定を実施します。各測定の間に10分間のインターバルを設けます。検出電流設定により300 mWが適切な加熱条件であるとわかりました。

THW-L200センサーの正確性及び繰り返し性(1~2%)通りの結果が得られました。3回の測定の平均熱伝導率は0.575 W/mK(標準偏差0.06 %)であり、期待される値(0.571 W/mK)との誤差は0.5 %以内でした。

結論

Thermtest社の測定プラットフォームMP-1は固体、液体、ペースト及び粉体の熱伝導率、熱拡散率、比熱、熱浸透率を測定できるように設計されています。MP-1ではセンサーを変えることで熱板法(TPS法:ISO22007-2)及び熱線法(THW法:ASTM D7896)の両方に対応します。前述の例のアプローチの通り、Thermtest社によってナノ流体に関する知見を増やし、理解を深めることができます。THW-L200センサー搭載のMP-1により、今までの導電性流体の測定という困難を乗り越えることができます。正確で高い繰り返し性の結果、生データ取得によって、Thermtest社はユーザー様がナノ流体の熱特性について正しい洞察を得られるようにします。ナノ流体は自動車から宇宙探索といった産業を変革し続ける限り、Thermtest社は測定方法を進化させ、革新的なソリューションを提供し続けます。熱伝導への熱意や正確性へのゆるぎない努力によって、この急激に進歩する分野においてThermtest社はリーディングカンパニーであり続け、ユーザー様をこの分野の最先端にお連れします。

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