ガス分析計の原理
キャビティリングダウン分光法
キャビティリングダウン分光法(CRDS: Cavity Ring Down Spectroscopy)とは、
多くのガス分子は固有の近赤外吸収スペクトルを有しており、これらの吸収スペクトルは大気圧環境下ではシャープで選択性が高い波形が得られます。吸収スペクトルが検出される波数は特定のガス分子に固有であるため、その吸収ピークの高さを計算することによりそのガスの濃度を決定することができます。
従来の赤外分光法(FTIR)では、微量ガスから得られる吸収は限りなく少ないことから、感度としてはppmレベルが限界でしたが、キャビティリングダウン分光法(CRDS)では、数km~数10kmの光路長によりSN比(signal-to-noise)を上げることでFTIRの感度の限界を超えました。これによりppbやpptといった高感度のガス分析が可能となっています。(図2.参照)
図2.FTIRとCRDSの感度の違い
キャビティリングダウン分光法(CRDS)では、単一波長のレーザダイオードから照射されたレーザー光はキャビティ内に進入します。PICARRO社のキャビティは、独自設計の3枚のミラーが配置されており、一般的な向かい合う2枚のミラーで構成されたキャビティに比べて、光路長が長く優れたSN比を得るために設計されています。レーザーが発振されるとキャビティ内は3枚のミラーで反射されたレーザー光で満たされます。次に、1枚のミラーに設置されたピエゾ素子の駆動により、無限ループに近い長さの光路長を得るために自動的にミラーの位置を制御します。そして、最終的にキャビティを通過したレーザー光をフォトダイオード(光検出器)で計測します。(図3.参照)
図3.PICARRO社のキャビティリングダウンの概略図
フォトダイオードは一定(数10μsec)の光を検出するとレーザーはオフになります。キャビティ内の光は3枚のミラー間で約10万回の反射を続け、キャビティ内の光強度は指数関数的に漏れ出ていき、光強度は減衰して最終的にはゼロになります。この減衰のことが”リングダウン”と呼ばれており、フォトダイオードによってリアルタイムに計測されています。このリングダウンに要する時間はミラーの反射率によって決定されますが、PICARRO社では99.999%の高反射率ミラーを使用しています。PICARRO社のキャビティの外形寸法は25cmで容量は35ccとなっており、3枚のミラーにより光路長は20kmを超える性能を有しています。(図4.参照)
図4.ガス分子がない場合、リングダウンは長くなる
ここで、レーザー光に吸収帯を持つガスがキャビティ内に導入されると、別のリングダウンが発生することになります。これはガス分子がある場合とない場合では、吸収によるリングダウンの時間が異なることを影響します。PICARRO社のガス分析計では目的とするガス種による吸収の有無にかかわらず、キャビティのリングダウンを自動的かつ連続的に計算し比較しています。これは、経時的に変化する可能性のあるキャビティ内の状態を正確に把握し、相対的な変化を常に補正することを目的としています。最終的な濃度値はリングダウンの差を測定することで生成されている為、レーザー強度の変動やレーザー出力の変化を無関係なものとしたことで、堅牢で信頼性の高い測定を実現しています。(図5.参照)
図5.ガス分子がある場合、リングダウンの時間は短く、濃度値が得られる
PICARRO社のCRDSは、45件の特許をベースに最先端の測定性能を提供しています
メンテナンスフリーのCRDS方式
次世代のレーザー方式であるCRDS方式は、ハード的な駆動部分がないことから、メンテナンスフリーであり、消耗品はパーティクルフィルタやダイヤフラムポンプのメンブレン程度となっています。
消耗品は安価なパーツのみ