TD-NMRによるポリプロピレンのキシレン可溶性分率(非晶相分率)の測定
1.概要
ポリプロピレン (PP) は、多くの産業で原料として広く使用されている合成ポリマーです。他のほとんどのポリマー材料と同様に、PPの反応性は、その自由表面と体積の近接性に直接依存しており、非晶質含有量の増加とともに増大します。数十年にわたって確立されているように、PPの化学反応と改質能力は、キシレン可溶性分率 (XS) の推定に起因しています。
PP中のキシレンの可溶分率を決定する従来の化学的方法 (ASTM D5492-17 または ISO 16152) は、溶媒抽出に基づいています。この方法では、高温で危険な試薬にポリマーを溶解する必要があります。これは分析時間が長いことが特徴で、結果は測定者の正確さと経験に依存しています。さらに、1回の測定にかなりの操作・作業が必要です。また、PP中のキシレン可溶性分率は、フーリエ変換赤外分光法 (FTIR) によっても推定できます。この方法は測定時間を短縮することができますが、試料の前処理を十分に行う必要があります。FTIR は主に試料表面の物性解析に有効で、試料内部の構造特性を拾って検知することができない場合もあります。この手法に代わるものとして、時間領域核磁気共鳴法 (TD-NMR法) がはるかに魅力的な手法になっています。この方法では、迅速な測定が可能で、試料表面だけでなく試料全体から情報を得ることができます。
2.原理
ポリプロピレンは結晶相と非晶質相から構成されます。キシレンに溶解する過程で、溶液への非晶質相の部分的な転移が生じます。したがって、ポリプロピレンの試料中の非晶質相の割合は、キシレンに対するポリマーの所望の溶解度と相関します。
ポリプロピレンの結晶相と非晶相の違いは、TD-NMR 横緩和減衰で個別に観察できます。これは、結晶相と非晶相の緩和の挙動(時間)が異なるためであり、信号に対する非晶相の寄与を導き出すことができます。したがって、この原理を用いることで測定は容易に適応でき、化学反応を必要としない正確で非破壊的な測定を行うことが可能です。
測定は90℃の高周波パルスによる試料中の観測核の励起と、それに続く自由誘導減衰(FID:Free Induction Decay)の検出に基づいています。ポリプロピレンの結晶相(Acr)からの信号は非晶質部分(Aam)からの信号よりもはるかに速く減衰します。ポリプロピレンのキシレン可溶分(XS)は、Aam/(Acr+Aam)に比例します。
図:FIDシーケンス
3.測定と校正
測定の手順は次の手順で構成されます。
1. NMRチューブにサンプルを充填します。
2. 40°C で20分間の温調を行います。
3. NMRチューブを装置にセットします。
4. 測定を実行し、数分待ちます。
5. 測定結果はシートに記録され、保存されます。
非晶相中のプロトンと全体(結晶相と非晶相)のプロトンの比率を測定するので、重量秤量は必要ありません。校正/検証には、校正用の標準サンプルだけでなく、キシレン可溶性分率がわかっている安定したポリプロピレンサンプルも使用できます。TD-NMRで取得した校正曲線を以下に示します。
図 TD-NMRを用いて得た標準的な校正曲線
この校正曲線により、ポリプロピレンをTD-NMRで測定し得た値から、キシレンの可溶分率を算出することが可能です。
4.特徴と利点
・分析装置市場内で比較的低価格
・信頼性の高い再現性の保証
・試料の秤量が不要
・消耗品となる試薬が不要
・従来法に比べ作業時間の大幅な削減
・ポリプロピレンのキシレン可溶分を全割合範囲で測定可能
5.結論
・TD-NMRではFID測定で得られた全体部(結晶相と非晶相)と非晶相に由来する領域の信号の振幅から、結晶相と非晶相のシグナル比を算出できました。また、非晶相はキシレンの可溶分と比例関係にあるため、ポリプロピレンサンプルのキシレンの可溶分率を評価することが可能です。