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バッテリーと濡れ #1 (電極の濡れ)

電極と濡れ

あらゆる生産プロセスにおいて、時間とコスト効率の関係は密接な関係があります。通常、機械ベースの大量生産を行う場合、秒スケールの精度が問題になることが多いのに対して、リチウムイオンバッテリーの製造工程においては、問題とされる時間スケールは大きく異なります。バッテリーセルに対して電解液を充填するのに何時間も掛かることがあり、これは製造工程における大きなボトルネックとなります。その為、バッテリー素材や製造工程における「濡れ」を最適化することは、生産コスト効率を向上させる上で重要です。

多孔質体の電極の濡れ

バッテリーセルの充填に時間が掛かるのは、電極が複数の電極材料により多孔質層を形成するからです。バッテリー性能を担保するにはこのような多孔質層に電解液を完全に浸透させ必要があります。この浸透に要する時間は、材料の組成、多孔質層の厚さと密度、電解液の濡れ性などが影響します。セルを作成して電気化学的特性を評価するよりも、セルを形成する前の各素材ごとの「濡れ」を評価することで、生産効率の最適化だけでなく、効率的な研究開発の促進にもつながります。

図1 リチウムイオン電池におけるカソードの構造と電解液浸透の様子

表面張力計を使用したウォッシュバーン法による濡れのモニタリング

高精度な電子天秤を搭載した表面張力計を使用して、多孔質サンプル内の液体の浸透によって生じる、時間経過に伴う重量変化を測定することができます。結果として得られる「浸透速度K [g^2/s]」に基づいて、様々な電極材料をバッテリーセルを形成する前に(もちろんバッテリーセルの状態でも)比較評価することができます。例えば、これによりスラリー内のカーボンブラックの最適な割合を決定することができます。

図2 ウォッシュバーン法における浸透による荷重の経時変化

電極のカレンダー処理における濡れの影響

電極の濡れはカレンダー処理の強度によっても影響を受けます。これは、多孔質体の細孔サイズ(空隙率)がその強度により大きく異なるからです。表面張力計を用いて、「浸透速度K」を評価することで、それらがどれの程度電極の濡れに影響を与えるか評価することが可能です。

 

図3 ウォッシュバーン法によるカレンダー処理強度に対する浸透速度の評価

電解液の表面張力の影響

「濡れる」とは固体と液体の2相関に生じる現象である為、当然ながら電解液の濡れ性も大きく充填時間に影響を及ぼします。一般的に表面張力 [mN/m] が小さいほど濡れが速くなります。その為、ほとんどの場合、電解液には界面活性剤が添加されています。文字通り表面張力計とは液体の表面張力を測定することを目的とした装置ですので、ウォッシュバーン評価のみならず、界面活性剤による表面張力の変化を測定することも可能です。

表面張力の成分分けと濡れの関係

表面張力と濡れの影響については、上述の通りですが、更にその成分にも着目することで、より濡れという現象の理解を深めることができます。例えば、電解液(液体)と電極材料(固体)それぞれの成分分けにより、各材料の分子間力相互作用の影響を詳細に解析することができます。各材料間(例:電解液と電極材料)の最適な濡れの相性予測が1つの例です。これにより、各材料間の相性を1つ1つ評価することなく、理論的な解析結果に基づいて、各材料間の相性を予測することができ、研究開発の効率化にもつながります。

図4 拡張係数Sにより、最適な電極と電解液の組み合わせを予測できる

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